連続ブログ小説 「光への願い」 第13話

渡の乗車した電車は比較的すいていた。周囲には女子高校生の声や子供の声が聞こえていた。

渡は周りの声や物音が耳から入ってはいなかった。

岬からの手紙を手に取った渡は涙を流し始めた。それは小さく小さく周囲に聞こえないくらいの声で

肩を小さく震わせ泣いていた。

 

手紙の中に一つのしおりが入っていた。そのしおりを手に取った渡はしおりを優しく優しくなでていた。

それは今から5カ月もさかのぼることであった。図書館で勉強をしていた2人。

 

岬が受験勉強の際に使用していたしおりであった。桜の絵が描かれたきれいなしおり。

最初にそのしおりを見たときに岬がしおりに描かれている桜の名所の話をしてくれたのを覚えていた。

当時岬がおもむろに「いつか2人で見に行こうね」と言っていたことを思い出した。岬の大切なしおり。

ふと裏面を見ると手書きで俳句が書かれていた。

さまざまの ことおもいだす さくらかな」(松尾芭蕉)

 

思い出のしおりであった。渡はしおりの意味することをすぐに分かった。

渡・心声「いつか、一緒に行こうね岬」

 

渡はそっとしおりを封筒にしまい手紙を読み始めた。

手紙はいつも通りきれいな几帳面な文字で書かれていた。

 

拝啓 渡君

君はこの手紙をすぐに電車の中で読んでいることでしょう。

私はいくつかお伝えしたいことがあります。

 

まずは図書館で勉強を教えてくれてありがとう。

おかげで私は大学生になることができました。

自分の進む道が決まっていない私に、いつも優しく応援してくれたね。

大丈夫、何とかなる、ゆっくり考えればいいからと。

 

おかげで私の心はすっきりしました。

焦らなくていいんだって。

 

でも私は渡君に一つだけ言わなかったことがあります。

私はいつも君を想っていました。本当に想っていました。

恥ずかしがりやの私。

君に好きだよってなかなか言えなかった。

 

遅くなったけど

私は渡君のこと大好きです。

君と出会えて本当に良かった。

 

大学はバラバラになっちゃったけど、心はいつも一つです。

大学はかわいい女の子が沢山います。浮気はだめだよ。

なんてね。

 

最後に

君に出会えて良かった。

私はこの4年間で必ず人として、女性として成長します。

かっこいい私を見ていてください。

 

体に気を付けて

                              君を想う岬より

                                          敬具

 

渡の目は真っ赤になり、手紙に涙がこぼれ落ち文字がぼやけた。たまらなく岬が愛おしく感じた。

抱きしめたい、抱きしめたいと心の奥深くで渡は叫んだ。

 

2人で過ごした数カ月の思い出が一気に頭の中を駆け巡った。

それはとてつもなく激しく、強く、そして優しく包みこまれて渡の頭の中を駆け巡った。

夏から冬にかけて過ごした2人の時間。あっという間の短い時間。

 

渡「岬さん・・・・・・・・・・・・うぅぅ・・・・・・・・・」小さな鳴き声が電車の中に響いた。

 

その頃岬も岐路についた。

足取りは重いが、気持ちは前に進んでいた。

岬も明後日には実家を出て一人暮らしが始まることへの胸の高まりも若干感じていた。

 

続く

By natsu