連続ブログ小説 「光への願い」 第33話

土曜日の朝を迎えた。カーテンから漏れる朝陽がとても眩しく感じた。

岬は昨夜なかなか眠れなかった。布団の中で父親がどう変化しているのか不安だったのだ。


出発の準備を整えると実家に向かった。
電車で揺られ実家から一番近い駅で降りた。岬には目的があったのだ。

父親が好きなケーキを買いに、人気のある洋菓子店へ向かった。
洋菓子がショーウィンドウから宝石のように輝いて見えた。

父親が好きなケーキは決まっていた。イチゴのショートケーキだった。
岬はケーキを4種類購入した。

 

足早に自宅を目指している自分自身を岬は感じ取っていた。その思いは多々あった。

父親の顔を早く見たい気持ちやケーキを見せて喜ばせたい気持ち、父親と話をしたい気持ちなど。

多くの想いが岬の足を加速させた。

 

岬「ただいまぁ」
母「お帰り、岬。いつもありがとうね」
岬「別に~。お母さんこれ」
母「なあに?」
岬「駅の近くのケーキ屋さんで買ってきたの」
母「お父さん喜ぶわね」
岬はにっこり微笑んだ。
母「岬、先にお風呂入ってらっしゃい」
岬「はあい。お父さんはお風呂入ったの?」
母「お父さんね。気分がいいからって散歩に行ったのよ」
岬はその言葉を聞いて安心した。岬がお風呂から出てくると父親も帰ってきていた。
父親「岬、お帰り。忙しくないのか?」
岬「ただいま。大丈夫。お父さんは体調はどう」
父親「今日はね、気分がよくてこの調子さ。20分ほど歩いたよ。お風呂入ってくるな」
岬「うん」

 


父親がお風呂から出てくると家族そろっての食事が始まった。

岬は最近の近況を話をした。抹茶のお店のことやバイトのこと、大学のことなど。

父親も母親もにっこりしながら話を聞いていた。とても幸せそうな表情で。

 

食事を済ませ居間でゆっくりしていると、母親がケーキと温かい珈琲を持ってきた。
母親「お父さん、岬がケーキ買ってきてくれたのよ」
父親「岬、ありがとうな。」
父親は幸せそうな表情でイチゴのショートケーキを食べていた。

岬も自分が好きなマロンケーキを食べて幸せなひと時を過ごしていた。

 

そんな時
父親「岬、お父さんのことはそんなに心配しなくていいからな」
岬「えっ・・・・・・・・」
父親「岬はお父さんが病気してから良く帰ってきてくれるけど、岬も無理しなくていいからね」
岬「無理なんてしてないよ。帰ってきたいから帰ってくるだけだよ」
父親「そうか、それならいいけど・・・・・・」

 

唐突に
父親「岬は恋人はいるのか?」
岬「・・・・・・えっ。まぁいるけど・・・・・・・・・・」
父親「今度連れてきなさい」
岬「え~/////////」
父親「どんな子なんだ」
岬「・・・・・・・・・・とてもやさしい人だよ。健治君っていうの」

 

岬は予想外の展開に頭が真っ白になってしまいそうだった。父親から恋人の話が出てくるなんて思いもよらなかった。
岬は父親がなぜ恋人のことを急に話をするのかなんて検討もつかなかったのだ。

 

その後も父と岬は23時頃まで話をしていた。
翌朝、岬はふと父親の言葉に意味を感じたような気がした。

もしかした父親が自分自身の病気からくる余命に関しての覚悟があるのではないかと。

ふと母親に岬は聞いてみた。

 

岬「お母さん。お父さんはまだ死なないよね」
母親「岬、まだお父さんは死なないわよ。でもね人はいつか死ぬのよ。お母さんは正直嫌だけど覚悟しているの。

そうじゃないとお母さんも気持ちがやってられないの。死なないでとか思うのが当たり前だけど、

人はいつかは死ぬものと考えたほうが冷静にいられるの。」

 

 

岬「・・・・・・・・・・」
母親「岬、ごめんね。こんなお母さんで」
岬「私もそう思うよ。お母さん。人はいつかは死ぬの。だからこそ、これからの時間を大切にしていきたいの」

 

母親は泣いていた。岬も泣いていた。
母親は言わないだけで不安がいっぱいなんだと岬は感じた。

 

実家から奈良に戻る際に父親が玄関の外まで見送りに来てくれた。
父親「岬、こんなお父さんでごめんな。お母さんをよろしく頼むぞ。ああ見えて泣き虫で、我慢強いから」
岬「うん。お父さんも無理しないでね。今度健治君連れてくるから」
父親「楽しみにしてるからな」
岬「うん」

 

そう言い、手を振り、笑顔を残し、岬は奈良に向かった。
岬には父親の笑顔が残像のごとく焼き付いていた。

 

それから3週間後、岬の電話が鳴った。母親からであった。

母親「お父さんが、お父さんが先ほど息を引き取ったの。急に調子悪くなって。」

母親は泣いていた。声が震え、いつもの母親とはまるで違っていた。

 

岬「うん、じゃあ今からすぐ帰るからね」

そう言い、通話を終了すると岬は大粒の涙を流し泣いた。

 

どうして、お父さん。この前の約束まだだよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その日はとても寒い11月終わりの日であった。

 

 

続く
By natsu