海に行った夜、岬はふと携帯電話の検索に「美容」と入れてみた。今日の朝、電車の中での検索途中で終わったままだった。検索すると多くの情報が飛び込んできた。美容師、ネイリスト、セラピスト、アイリスト、鍼灸、ヨガ、インストラクターなどなど。
岬「いろいろあるんだなぁ。」
とつぶやきながら一つ一つサイトを確認した。しかしパッとしない自分自身に気づいていた。頭の中に自分が仕事をしているイメージがつかなかったのである。
岬はおもむろに自分の部屋から母親がいる台所へ向かった。
岬「お母さん」
母「なぁに。どうしたの」
岬「お母さん、美容の仕事って何してたの?」
母「デパートで美容部員してたの。お化粧品を売ってたわ。本当楽しかった」
岬「なんで辞めちゃったの」
母は少し考えこんでゆっくり話し始めた
母「・・・・・・あなたを妊娠した時にそのお仕事を辞めたの。あなたは長女で、お母さんも子育て初めてで。 どうなるか分からないから。辞めて育児に取り組もうって決めたの。でもねお母さん後悔ないんだ。あなたとの時間は本当に楽しかったわ。大変な時もあったけど。本当に育児楽しかったの。だから後悔がないのよ」
岬の目には光るものがあり、母親には見せることができなかった。
岬は少し心を押された感じがした。少し鼻声で
岬「お母さん。美容の仕事は大変?」
母「そりゃ。大変よ。お客様をきれいにしてあげなければいけないのよ。適当なことは言えないし。でもね、お客様に寄り添う気持ちがあれば気持ちは通じるものよ。商品を売ろうとしたらだめなの。相手が理解して、納得して、継続して使えるものでないとね」
岬はただただ、母親の言葉に関心されられるのみであった。
母「あなたとこんな話する日が来るなんて夢にも思わなかったわ。お母さん嬉しい」
岬「・・・・・・・・・・・・おやすみなさい」
岬はそう言い残し部屋に戻った。
自分が目指すものが美容でないにしても、母親の言葉がどーんと心の奥深くに突き刺さっていた。更に悩む岬であったが前に進む気持ちが強くなっていたことには間違いなかった。
確実に岬の心の成長する音がし始めていた。
続く
by natsu