連続ブログ小説 「光への願い」 第24話

1月中旬になり寒さを増していた。剛は岬との連絡を断った。岬は寂しさを感じる暇はなかった。

 

岬は2月に写真部を辞めた。そこには明確な理由があった。自分が目指す道を勉強するため、

そして人生初のバイトをするためであった。

暫くして、岬は喫茶店のアルバイトを始めた。

その喫茶店は40年続く喫茶店で、現在は1日に20人程度しかお客さんが来ない喫茶店。

老夫婦が経営をしていた。

 

そして喫茶店で岬の一生を変えていく1冊の本に出合った。

いつも喫茶店の店主が同じ本ばかりを読んでいた。

興味を持ち読ませていただくと、その本の表紙裏に手書きで

    「成功の出発点は強く強く願望を持つこと」と記してあった。

 

5年後に分かることだが、この本は両親も読んでいた本であった。そこから「自立した女性」

につながっていたことが、岬が自立した女性になった時に分かるのである。

 

時々店主は岬にコーヒーをご馳走してくれた。店主のいれるコーヒーは格別だった。

岬「オーナー。なんでこんなに深いコーヒーになるんですか?」

店主「君のために入れてるからだよ。コーヒーを入れるだけではないんだ。

一人一人の顔を見て、幸せな顔を想像していれるんだよ」

岬「・・・・・・・・・・ありがとうございます。」

 

岬は高齢の店主の言葉に感動した。

岬はもしかしてこの本にヒントがあるんじゃないかって、自分でも同じ本を購入した。

店主の本は何度も何度も引かれた線が印象的であった。

店主は何回くらいこの本を読んで、人生を考えたのだろう。岬の頭に何度も何度もよぎった。

 

最近、岬は自分を高めてくれる人との出会いに感謝していた。

高校生までとは違い、自分自身が出会う人からの影響は大きなものであった。

しかし、それは他人が与えてくれるものだけではなく、岬自信が成長をしていたのだ。

自分ではなかなか気づかないものである。

 

ある日、岬はバイトの帰り道、一人の目の見えない男性が困っている様子を感じ取った。

 

岬「どうされましたか。お手伝いしますよ」

男性「ありがとうございます。この近くに、赤い扉のお店は見えますか」

岬は周囲を見渡した。

岬「もしかして指輪を売っているお店ですか?」

男性「そうです」

岬は宝飾店まで付き添い、岬の手をつかんでもらい誘導した。その際に岬は聞いた。

岬「指輪購入されるんですか」

男性「・・・・・・はい。恥ずかしいのですがプロポーズしようって考えてます。

相手の方は正直私の目には移りません。でも、声の質や柔らかな話し方、私をサポートしてくれる手の優しさ。

全てにおいて私は癒されるのです。私の中のイメージ像みたいなものはあるのですが、なんせ見えないものですから」

そういいながら、恥ずかしそうに男性は笑った。

 

岬「素敵です。私応援します。指輪一緒に見てもいいですか?」

男性「・・・・・・・えっ。恥ずかしいなぁ。でもあなたも優しい人。いいですよ。見てください」

岬「ありがとうございます」

 

岬と男性はその宝飾店に入った。店内には様々なブランドの指輪やイヤリング、ネックレスがずらりと並んでいた。

岬の目が大きく見開いた。自分がウェディングプランナーになることを一瞬思い出した。

しかし、きれいな宝飾を見ていると夢中になった。

 

男性「50万くらいの予算なんですが」と店員に声をかけた。

サイズや大きさ、カット数など様々なものがあり、男性は話を聞いていた。

男性はサングラスをしており顔の表情は分かりづらかったが、時折微笑む顔が印象的であった。

 

一生に1度の場面に立ち会えた幸せと興奮とが入り乱れていた。

男性は指輪を購入した。

出来上がりに約1カ月かかるということであった。岬は男性と一つの約束をした。

1カ月後の指輪の受け取りの際に同行させていただくことを。

 

男性は別れ際に岬にこう話した。

男性「今日はありがとう。僕は障害者。相手は健常者なんです。でも僕はその人のことを愛しているんです。

いつも頭の中にその人がいるんです。さっきもその女性を思い浮かべて指輪を選びました。

受け取ってもらえるかは分からないけど、頑張ってみます。諦めずに自分の気持ちを伝えてみます。

今日あなたと会えたことも何かのご縁です。本当にありがとう」

 

岬「はい。こちらこそありがとうございます。大切な時間に立ち会わせて頂きまして」

 

岬は男性と連絡先を交換して、お店の前で別れた。

 

岬とこの男性の出会いは岬の中で深く深く、長く長く影響する出会いであった。

岬は笑顔で歩き出した。背筋をしゃんと伸ばし、岬の長く、きれいな髪が風に揺られ歩く姿は、

自信のある、やる気に満ち溢れた女性がそこにいた。

 

2月中旬の寒い日であったが、岬とその男性は暖かな日になった。

 

続く

By natsu