母「岬~ 岬~ 行くわよ」
今日は遂に個人面談の日。暑く太陽が照り付ける木曜日の朝。私は憂鬱な気分でしかない。
岬「もぅ。うるさいなぁ。」
岬は小さな声で呟きながら準備していた。
ガラガラガラ、ガシャン。家の扉を閉める音とともに母親と同じ道を歩いて学校へ向かった。
母「考えたのちゃんと。行き当たりばったりはダメよ」
今日も同じことを言われる岬。岬の心はうつむき加減で、考える気もなくなっていた。
岬「・・・・考えてるよ」
母「本当に考えてるの。今日先生から聞かれるでしょ。恥ずかしいこと言っちゃだめよ」
岬「分かってる・・・・・」
岬の心は更に沈む一方で、ただただそう言わざる得なかったのである。そのまま無言で学校に着いた。
ガラガラガラ 面談室の扉が開き、先に個人面談をしていた父兄と生徒が出てきた。
その後に担任が「どうぞ~」という声が聞こえた。
私は手を固く握り緊張していたのを今でも覚えている。そして汗が顔をスッーと流れるのを感じたとともに
母親から「行くわよ」と急かされる様に立ち上がった。
母親「先生、いつも岬が大変お世話になっております。ご迷惑はおかけしていないでしょうか」
と母親が話始めた。私はうつむき、廊下で待っていた時のように手を強く握りしめていた。
担任「こんにちは。今日はお時間を頂きましてありがとうございます。早速ですが進路に関してお話を進めていきます
岬さんの最近の模試の結果は見られたでしょうか」
母親はハッとするような顔を一瞬し、岬をちらっと見た。岬は更に肩を丸め小さな弱弱しいひな鳥のように俯きを深めた。
担任は母親が結果を見ていないことを悟り、ゆっくりと話始めた。
担任「実は岬さんはここに記載している大学を記載していました。結果はすべてD判定なんです」
母「・・・・・・・・・・・・・・」
母は言葉を失い、ただただ模試の結果をじっと見つめるのみであった。
母「このままでは合格難しいということですよね」
担任「そうなんです。だからこそ、ここから追い込みが必要なんです。今日はお母様にそのことをご理解いただきたいと思いまして」
母「はい・・・・・・・・・」 母は短く返事をしたが、全くと言っていいほど力が抜けていた。
担任「岬は将来何をしたいんだ。」
岬は今出せる力を振り絞って声を出すが担任も母親も聞き取れない程であった。
母「岬、何を言っているか分からないから大きな声で言いなさい」
岬「・・・・・・・・・・・びよう・・・・・・・・・・・・・びよう」
考えた末に「美容」と岬は答えた。
母「あなた、何を言っているの。そんなんで将来どうする気なの」
岬「私、美容関連の仕事をしたい」
岬の中では本心ではなかったが、ついつい口に出してしまった。終始うつむき加減で顔をなかなかあげれなかった。
個人面談の帰り道のことである。
母「岬、あなた本当に美容関連の仕事がしたいの?・・」
岬「・・・・・・・うん」
母「じゃあ、頑張りなさい」
母親は力強く言った。
母「お母さんね。本当は昔美容の仕事をしたことがあったの。美しい女性にあこがれてね」
岬はうつむき加減から母親の顔を覗き込むように見た。
岬「お母さんは岬が美容の道に進むのを応援してくれるの」
母「だって、お母さんやお父さんが応援しなければ誰があなたの応援をするの。美容の仕事は大変よ。
覚えることも沢山あるし、お給料は最初は安いの。お父さん、お母さんいつも「自立しなさい」って
言ってたでしょ」
岬「うん」
母「自立するって本当に難しいの。でもね自分がやる気を出せばできないことではないのよ。美容も立派な
仕事よ。美容と言っても色々あるでしょ。岬は何がしたいの」
岬「まだ、分かんない・・・」
母と岬はそれ以降黙ったまま、家路を急いだ。
岬は少しほっとした表情をしているとともに、なんで「美容」なんて言ってしまったんだろうと、何かを思い描いていた。
続く
by natsu