岬は他県の試験会場に移動するため、家を出てまずは近くの駅へ向かった。その時である。
岬の目に隣のクラスの渡が飛び込んできた。渡は度々図書館で勉強も一緒にする仲になっており、
色々と相談できる友人でもあった。
人混みがすごく、寒さも増し、通りすがる人々は下を向いて歩いている人ばかり。
他人の顔など見ている余裕もない中、二人は目が合った。
渡「岬さん。今から行くの。以前話を聞いていたから何となくここにいたら会えるかなって思って」
渡は実は2時間も前から駅に来ており、岬が通りすがるのを探していた。
岬「渡君。寒いでしょ。これあげる」と言い、岬はポケットからホッカイロを渡に渡した。
渡「岬さん。これいいの?」
岬「いいの、いいの。まだ持ってるから。ここで何してたの?・・・・」
渡「・・・・・・・・・・・・岬さんに言いたいことがあって」
岬「なに?」
渡「岬さん、今まで毎日頑張ってきたのを僕は見てきた。だから、自身もってください。僕、祈ってるから」
岬「渡君。もしかしてそのことを 言うためにここにいてくれた?」
渡「・・・・・うん」
岬「渡君。本当ありがとう、私頑張るよ」
渡「うん。大丈夫、あと・・・・・・・・・・・・・・・まぁいいや。今度で」
岬「なにぃ。 」
渡「今度でいいや。何もない・・・・・・・」
渡が少し、はにかむ様な、恥ずかし気な表情を見せていた。ものの数秒のことなのに、長い時間が経過したかの
ような気持になっていた。
岬「じゃあ。私行くね。」
渡「うん」
岬が10mほど歩いたところで、後ろから渡が大きな声で叫んだ。
渡「岬さん。頑張れぇ」と言い渡は大きく手を振った。
岬もそれに応えて手を振り返した。
岬には大きな励みになったことは間違いなく、岬は足取りが軽く感じれたことも実感していた。
ただ、一つ岬の頭に残ったことがある。渡が何かを言いたそうにしたけど、言いかけたことをやめたことであった。
岬の耳にはいろんな声や音が入ってきていたが、渡のあの時の表情や仕草、言えなかったことを考えていると
岬の足は進むものの、周囲の情景はすべて打ち消されていた。
試験も無事終わり2週間が過ぎた日のことである。
岬と渡が久々に再開した。岬が渡に
岬「渡君。あの日何を言おうとしたの?」
渡の顔が急に固くなるのを岬は感じた。
続く
By natsu