初夏が訪れようとしている7月初め。蝉の鳴き声が少し聞こえ始めた頃であった。
岬「今日も暑いなぁ。学校行きたくないよ。」
母「何、馬鹿なこと言ってんのよ。早く準備しなさい」
いつもと同じ言葉と同じ風景である。しかし、今日は少し違った。
母「岬、学校の先生から個人面談の書面もらったでしょ。もうあなた高校3年生なんだからしっかりしなさいよ」
岬「はぁい」
母「そんでどうするの。進学。・・・・」
岬「・・・・・私、・・・・・・・分かんない。」
母「分かんないなんて。明日よ個人面談は。お母さん恥ずかしいじゃない」
岬「とりあえず大学行くわ」
母「とりあえずって。意味のない進学はだめです。いつも言ってるでしょ。女性は自立してるか、してないかで大きく人生が変わるのよ」
岬「自立・・・・ 自立 」
岬は幼少期から父母から「自立した大人」の話を聞いていた。しかし、いまいち自分の中で腑に落ちないのであった。
岬「お母さん、自立しないとどうなるの?? 仕事もできない? 結婚もできない?」
母は眉を顰め、岬にゆっくりと諭すように話しかけた。
母「岬、自立だけがすべてじゃないの。でもね、人は生きていかないといけない。生きていくために岬はずっとお父さん、お母さんから養ってもらうの? そういうことなのよ岬。」
岬は何も言わず学校へ出かけた。
残された母は椅子に座り、外の蝉の鳴き声を遠目で聞いていたのである。
母の頬には、うっすら涙がこぼれ落ちたのである。
母は小さな声で 「 どうしてかな 」とポツリ呟いたが、蝉の鳴き声に母の言葉はかき消されるような弱弱しいものであった。
続く
by natsu